2011年3月26日土曜日

飲食物の放射能汚染による健康影響は?

一昨日、千葉県水道局が松戸市内の2浄水場の水から、
乳児の飲用基準(1リットル当たり100ベクレル)を超える
放射性ヨウ素が検出されたと発表したことにより、
自分の住む町の水道水もついに乳児の飲用を控える対象として指定されました。

当然のことながら、町のスーパーでは清涼飲料水が売り切れ、
イトーヨーカ堂でも2Lのミネラルウォーターは母子手帳を提示した母親に
優先して販売されることになったようです。

自分が恐れていた流通のパニックがさらに助長されているように感じます。
TVでは相変わらずACのコマーシャルで、「買占めは止めよう」と訴えていますが、
そんなことを言っている場合ではない、というのが一般消費者の心理でしょう。

日本小児科学会など小児関連の3学会は25日、
「現在検出されている程度の値なら、短期間の摂取であれば、
乳児であっても健康に影響を及ぼす可能性は極めて低い。
乳児は、大人よりも体内の水分量が多いため、水分不足は健康に重大な影響を及ぼす」
として、代わりの飲料水が確保できなくても「水分摂取を優先させる」との見解を出した(読売新聞)。

放射能を恐れるあまり、水分を取らないことのほうが、
はるかに乳幼児の健康に影響を与えるということですね。

21日の自分のブログでも同じようなことを書きましたが、
いまのような非常事態において飲食物の流通を制限することは、
まさにこのような「本末転倒」を招くリスクがあると思います。

行政のリスクコミュニケーション手法に問題ありと強く感じる部分であり、
「飲食物の放射能汚染に関する暫定規制値」の見直しをすべきと
自分は主張したところです。⇒詳細はこちら

実際、内閣府の食品安全委員会ではその暫定規制値について再評価中で、
昨日25日も、「食品衛生法に基づき放射性物質について指標値を定めること」
に関する食品健康影響評価について議論されたようです:
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110325sfc

その会議資料のなかで、過去の国際機関などの評価結果をみても、
実際に飲食物への放射性物質汚染による健康評価の報告はなく、
あくまで放射線等量(いわゆる人体への放射線量:シーベルトであらわす)による
原発事故など非常事態の際の介入値の案が示されているのみのようです。

この「国際機関等の評価等について」という資料の中には、興味深いコメントがあります
(ICRPのPublication63-1992より抜粋):
「代替食品が得られない状況、あるいは住民集団が重大な混乱に陥りそうな状況では、
1年につき10ミリシーベルトよりもはるかに高い予測線量でのみ介入は正当化されるかもしれない。」

すなわち、現在設定されている飲食物の放射能汚染の規制値も、
いまのような市民がパニックに陥りそうな市場環境では
もっと高い数値に上方修正すべきではないかと解釈できるのではないでしょうか?

今回、厚生労働省が緊急に設定した飲食物中の放射能の暫定規制値も
原子力安全委員会が過去の国際機関の介入値を参考にして、
当該核種(ヨウ素131および放射性セシウム)の1年間の継続的な摂取から
予測される放射線等量が健康影響を及ぼす可能性のある数値(50mSv)から
算出された放射能の規制値として設定されたようです。

原子力安全委員会の考察した内容は非常に難解であるものの、
いろいろな条件が2つ3つ重なって、最悪の場合、
がんになる確率が0.5%あがると解釈できます。

放射能汚染されたホウレンソウを毎日洗わずゆでもせず、1年間食べ続ける人がいるのでしょうか?
しかもそれでがんの発症確率が0.5%増えるだけということです。

確かに飲料水や原乳の場合は、毎日摂取する可能性が高いので、
1年間とか長きにわたっての放射能汚染はいやな感じがしますが、
これらについても高濃度に放射能汚染されたものばかりを継続的に摂取するのでなければ、
規制値を算出する際に予測されたような放射線量にはならないと思われます。

だからこそ、枝野官房長官の記者会見では、いつもお決まりのように
「ただちに健康影響が出る放射線量ではない」とのコメントが出てきますが、
実際その放射線量の水をどのくらい飲んだら健康影響が出るのかについて
全く説明がないため、市民の不安を煽ってしまう結果となっています。

確かに説明はできないはずです。
そんな調査結果は過去にないので、あくまで最悪の予測から算出された
念のための安全規制値だからです。

昨日の朝のNHKニュースに、原子力安全委員会の元理事の先生が
出て説明しておられましたが、チェルノブイリの原発事故のときでも、
実際長期的な被爆による健康影響が出たのは
乳幼児のみだったので、大人は全く気にする必要はないですよ、
とのコメントがありました。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【東京大学医学部付属病院放射線科の中川恵一先生のツイッターコメントより抜粋】:

乳幼児の被ばくに関して。甲状腺に関しては、内部被ばくによって、
乳幼児に発がんが増えたというデータがあります。
外部被ばくに関しては、特に大人との違いは見られません。

チェルノブイリの原発事故で、唯一増えたがんは、小児の甲状腺がんでした。
内部被曝については、小児に影響が出やすい可能性があります。
チェルノブイリ事故とちがい、今回の原発事故に近い、
スリーマイル島原発事故では、小児の発がんリスクの上昇は見られませんでした。

200mSv(ミリシーベルト)つまり200,000μSv(20万マイクロシーベルト)が
医学の検査でわかる最も少ない放射線の量と言われています。

症状が出るのは、1,000mSvすなわち1,000,000μSv(百万マイクロシーベルト)からです。
極端な例ですが、全身に4,000,000μSv(4百万マイクロシーベルト)あびると、
60日後に50%の確率で亡くなります。

もっと低い放射線量では、症状もなく、検査でも分かりませんが、発がんのリスクは若干上がります。
ただし、およそ100mSv(ミリシーベルト)の蓄積以上でなければ発がんのリスクも上がりません。

危険が高まると言っても、100mSvの蓄積で、0.5%程度です。
そもそも、日本は世界一のがん大国で、2人に1人が、がんになります。
つまり、50%の危険が、100mSvあびると50.5%になるわけです。

タバコを吸う方がよほど危険です。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

これらの情報から判断すると、自分が政府のリスク管理者であったなら、
放射能汚染の農産物を出荷停止にする前に、タバコを販売禁止にしますね。
それを考えると、JTが震災の影響で、30日から12日間
一部の銘柄のタバコを出荷できないそうですが、本当に皮肉な話です。

自分はやはり、現在の飲食物の放射能暫定規制値は
いまの非常事態を加味して総合的に考えたときに、
低すぎると考えます。

乳幼児においては、確かに長期間の摂取は要注意といいながらも、
過度な摂取制限をすることの健康への悪影響の方がむしろ危険なことを考えると
母親が過敏に反応してしまうような飲食物の出荷制限はすべきでないと思います。

放射線による健康影響については、さらに勉強していきたいと思いますが、
もし小職のブログに対してご不明な点や反論のある方は、
ぜひご教示いただきますと幸甚に存じます。

よろしくお願いいたします。

2011年3月21日月曜日

福島や茨城の農産物の安全性にいまだ問題なし。

今回の東北関東大震災で亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、
被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

昨日さかんに報道されておりましたのが、福島原発事故にともなう食品の放射能汚染の問題でした:
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110319-00000568-san-pol
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110320-00000627-yom-soci

枝野官房長官の声明で、福島県産の牛乳と茨城県産のホウレンソウから、食品衛生法上の暫定基準値を超える放射線量が検出されたが、「健康に影響を及ぼす数値ではなく、冷静な対応をお願いしたい」と述べられました。

今回検出された放射性物質濃度の牛乳を、仮に日本人の平均摂取量で1年間摂取し続けた場合の被曝線量は、CTスキャン1回程度のものである。ホウレンソウについても、やはり日本人の年平均摂取量で1年間接種したとして、CTスキャンと1回分の、さらに5分の1程度である、という。

内閣府食品安全委員会のホームページにわかりやすいQ&Aがあるので、ご参照ください:
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_genshiro_20110316.pdf

ただ、今回厚生労働省が食品の安全性に関して決定した食品衛生法の暫定規制値(放射性ヨウ素とセシウム)は値が低すぎるような印象があります。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e.html

一般消費者はそれでもなくとも、現在放射能に関して過敏な状況にありますので、
食品衛生法の基準値を超えたので出荷停止と言われると、
福島県産の乳製品全般や茨城県産の野菜全般への風評被害が非常に心配されます。
すでに栃木、群馬、千葉でも同様の放射能汚染が報道され始めましたが、
このままでは明らかに安全な食品が福島原発事故の煽りを受けて、風評被害にあいそうです。

このような状況において最も大切なのは、
政府やメディアのリスクコミュニケーションが適切かどうかということではないかと考えます。

この「食品衛生法上の暫定規制値」というのは、どういった根拠をもとに設定された基準値なのか、
それをわかりやすく説明する必要があるのではないでしょうか?
しかも「暫定」という限りは、変更される可能性があるということでは?

今回厚生労働省が決定した「食品衛生法上の暫定規制値」は
内閣府原子力安全委員会が報告した「原子力施設の防災対策について」
という指針の中にある基準値とのことですが、その根拠はわかりません:
http://www.nsc.go.jp/shinsashishin/pdf/history/59-15.pdf

少なくともこのままでは、明らかに健康影響のない食物までが、
市場に出ていかないばかりでなく、出荷停止になった地域の農産物全体が
風評被害をこうむることになるでしょう。
枝野官房長官がいくら「冷静な対応を」と叫ばれても、
乳幼児をかかえる母親たちにとっては、全く聞く耳をもってもらえないように思います。

私は、このような消費者を「フード・インフォマフィラキシー(食品情報過敏症)」と呼んでいますが、
実はこの問題はむしろ情報を発信する側にあるケースが多く、
リスクコミュニケーションの手法が改善されることで治る可能性があると考えています。

今回の食品の放射能汚染の問題についても、
行政がリスク評価+リスクコミュニケーションをどう管理していくかによって
風評被害を最小限におさえることができるのではないでしょうか?

まずは、内閣府の食品安全委員会でリスク評価をされることで、
厚生労働省もこの「暫定規制値」を上方修正することができるのであれば、
一刻も早く食品安全委員会でのリスク評価をお願いしたいと思います。

非常事態の日本で本当にいま考えないといけない人体への健康影響は
放射能汚染の食品を流通規制することではなく、
むしろ早く食品の流通を平常な状態に復帰させることだと思います。

法律や規制がそのまま適用できるのは、通常の社会環境にあるときの話であり、
原発がいまのような状況は明らかに社会全体が非常事態です。
行政には非常事態仕様の規制を検討していただきたいと思います。

本当に大切な国民の生命と健康と食について、
最善の策を検討すべきと考えます。


K